糖尿病のHbA1cと高濃度酸素液(WOX)飲用

萩原 敏且 1),3) 松本美弥子 1),3) 織田 慶子 2),3) 松本 高明 1),3)

1) メディサイエンス・エスポア株式会社、2) 保健医療経営大学保健医療経営学科、3) 活動法人QOLサポート研究会

はじめに

2014年の「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人は2011年の270万人から316万6千人に増加し 1)、さらに増える傾向にある。本調査における「糖尿病有病者」とは、後で述べる糖化型へモグロビン(HbA1c) のNGSP (国際基準) 値が6.5%以上か、糖尿病の治療を受けている人である。

糖尿病の診断は、これまで空腹時または食後の血糖値の測定で行われていたが、血糖値は食事や運動の影響を受けやすく、一時的な節制や過食でも簡単に数値が変わることから、近年HbA1c値の測定が行われるようになった 2)。HbA1cは赤血球ヘモグロビンに血中グルコースが吸着したもので、血糖値の測定と異なり、赤血球の寿命が長いことから、過去1~2月間の血糖の状態が把握できるため、糖尿病のより正確な診断が可能で、合併症の予防にも役立つとされている 2)

これまで、糖尿病や糖尿病による合併症を防ぐため、食事療法や薬物療法が中心に行われていたが、有酸素運動能力の低下に伴い、糖尿病の発生率が高くなることや 3) 運動をしないグループでインスリンが十分にあるにもかかわらず血糖値が上昇するインスリン抵抗性が指摘されるなど 4)、糖尿病における有酸素運動の重要性が指摘されるようになった。

われわれは、大気下で高濃度溶存酸素が長期間保持され、飲用により血中酸素飽和度(SpO2)が上昇する高濃度酸素液(WOX)を開発し 5)、本製品が慢性閉塞性肺疾患の改善 6) や、うつ症状および睡眠障害の寛解 7) に、酸素カプセルや有酸素運動に匹敵する効果が期待されることを報告したが、予備試験において、本製品の2ヵ月間飲用でHbA1cが0.2%以上低下するという結果が得られたことから、糖尿病が疑われるWOX飲用希望者についてWOX飲用試験を行い、HbA1cの測定を主に、糖尿病に対するWOXの影響を調べた。

対象および方法

試験結果について個人情報保護法に基づき、個人が特定されない方法で公開することの了解が得られた成人を対象に、医療機関から個人の臨床検査結果の入手が可能な17例(男12例:年齢40~70歳代、女5例:年齢50~80歳代)を対象とした。

被験者はWOX飲用試験実施に当たり、性別、年齢、体重、基礎疾患の有無など一般的な質問、ならびに糖尿病歴および治療法についての回答とともに、表1に示す方法でWOXを飲用した。臨床検査成績はWOX飲用前(期間は限定せず)および飲用後およそ1ヵ月以内の検査結果とした。なお、被験者に対してSpO2の測定はしていない。

表1 WOXの飲用方法(飲用量)について

飲用試験用に500mLペットボトル24本提供
起床時(朝食前) 125~250mL
就寝時 125~250mL
呼吸困難を感じられるときは125~250mL
その他、体調により125~250mLを適宜増加させます
症状の進行などによりWOXが不足した場合はご連絡下さい

結果

被験者17例の性別、年齢、体重、病歴、WOX飲用前および飲用後の血糖値およびHbA1cについて表2に示す。被験者数は男性が女性のおよそ2倍、年代別では50~60歳代が主であった。治療としては食事療法が7例、運動療法が6例であった。薬物療法は1例を除く全例で実施され、5例でインスリン製剤が用いられているが、その他の薬剤についての詳細は省略した。なお、被験者の半数は複数の療法を受けていた。また、病歴は20年以上が5例、10~15年が3例、6年未満が9例で、半数は長期間の病歴であった。

血糖値およびHbA1cは表2に示すように数値にかなりばらつきがあるが、WOX飲用前の平均血糖値は164mg/dL(107~296mg/dL)であったのに対し、およそ3週間のWOX飲用により、平均値は142mg/dL(84~268mg/dL)となり、4例(No.5、10、14、17)でやや上昇したものの平均20mg/dL低下した。また、HbA1c値では飲用前の平均が7.6%(5.8~10.7%)に対して、飲用後の平均値は7.3%(6.0~9.9%)で、2例に上昇があったものの0.3%低下した。個別にみると、WOX飲用により血糖値およびHbA1cが低下あるいはHbAlc変化なしが12例、血糖値およびHbA1cともに上昇した 例が1例(No.5)血糖値は低下したが、HbA1cが上昇した例が1例(No.4)HbA1cは低下したが、血糖値が上昇した例が2例(No.13、14)みられた。このうち病歴20年以上の1例(No.3)および病歴が5年以下の1例(No.11)は7.0%以下まで低下した。一方、変化なしが病歴10年以上および5年未満の各1例、逆に上昇したのは病歴6年未満の2例(男のみ)にみられた(表2)。全例についてWOXの飲用によるHbA1cの変動をまとめた(図1)。HbA1cが低下したのは12例(70.6%)で、このうちHbA1cの高い2例(No.7, 12)はHbA1cのみならず血糖値も大きく低下した(表2)また、この2例を含むHbA1cが0.6%以上低下した5例の臨床所見や検査結果をみると、表には示していないが髪の毛がくるっとしてきた(No.6)、中性脂肪の減少や尿蛋白が+2から±への低下がみられた(No.7)。熟睡できる、身体が軽く感じる(No.11)、目覚めがよい、身体が軽い(No.12)、足のむくみが減少した、寝つきが良くなった(No.15)など臨床検査結果あるいは感想も報告されている。

表2 糖尿病を疑う成人のWOX飲用前および飲用後の血糖値(mg/dL)およびHbA1c(%)

図1 糖尿病を疑う成人のWOX飲用前および飲用後HbA1c(%)の変動

考察

糖尿病の診断にはHbA1cのみの反復検査は不可とされ、血糖値も併せて測定することとしているが 8) 、HbA1cは糖尿病による合併症を防ぐための指標として注目されている理由としてHbA1cは酸素に高い親和性を示すが、酸素解離能低下による酸素運搬機能の障害により末端組織で酸素不足を起こし 9)、創治癒の遅延や末梢神経障害の原因 10) になると考えられる。日本糖尿病学会と日本老年医学会は、合同でHbA1c値をもとに「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」とした合併症を防ぐためのガイドラインを発表しているが 11) 、それによるとインスリン製剤などの投与がなされていない場合のHbA1c正常値は7.0%未満である。今回の飲用試験に参加した人のうち12例(70.6%)が7.0%以上で合併症を起こす危険性があるとされるが、WOXのおよそ3週間飲用により2例は7.0%未満に、また4例は7.0%まで低下した。高気圧酸素カプセルもHbAlcを下げる効果があるとされているが 12) 治療期間が長いこと、使うに当たってインスリン投与中は避けることなど規制もあることから、WOXはHbA1cを低下させる簡便で有効な方法と考える。なお、本試験中でWOX飲用によりHbA1cが上昇する例が2例みられたが、異常高値を示す原因として腎不全、異常ヘモグロビン、アスピリンの大量内服、アルコール中毒などが報告されている 13) 本試験では1例に基礎疾患として膠原病がみられたものの、他の1例では自覚症状など特記すべき事項はなかった。今回のWOX飲用試験でHbA1cの低下に伴い臨床症状の改善もみられたことから、今後例数を追加して更に検討したい。

利益相反

本論文を掲載するに当たり報告すべきものなし

文献

1) 糖尿病の調査・統計・数字、糖尿病ネットワーク(http://www.dm-net.co.jp/calendar/2015/024568.php)

2) 日本糖尿病学会: 糖尿病 診断基準を見直しへヘモ グロビンA1c(HbA1c)に (http://hakuraidou/com/blog/2783/)

3) 糖尿病ネットワーク、糖尿病患者さんの運動指導の実際 糖尿病患者さんに、なぜ運動が必要か(前半) (http://www.dm-net.co.jp/fitness/staff/001/11.php)

4) 糖尿病ネットワーク、糖尿病患者さんの運動指導の実際 糖尿病患者さんに、なぜ運動が必要か(後半) (http://www.dm-net.co.jp/fitness/staff/001/12.php)

5) 松本高明,大槻公一, 谷口明ほか:高濃度溶存酸素液(WOX)飲用による動脈血酸素飽和度(SpO2)への効果 Prog Med 2016:36:127-130.

6) 萩原敏且,山崎勉,野口いづみほか:慢性閉塞性肺疾患(COPD)症状と高濃度酸素液(WOX)の飲用効果 Prog Med 2016:36:571-576.

7) 萩原敏且,猪森茂雄,松本美弥子ほか:うつ、睡眠障害における高濃度酸素液(WOX)の効果 Prog Med 2016 36 973-976.

8) 国立国際医療研究センター病院:糖尿病標準診断マニュアル(一般診療所・クリニック向け)第13版 (https://dmic.ncgm.go.jp/medical/060/diabetes_treatment_manual.pdf)

9) 天野昌夫,永井良三,長谷川昭:糖尿病における運動時骨格筋酸素運搬障害の基礎的及び臨床的研究 (https://kaken.nii.ac.jp/d/p/09670693)

10) 高岡駅前クリニック:糖尿病と創傷治療(高岡市医師会報記事)2007年8月 (http://www.einan-clinic.com/ishikaihou/28.html)

11) 日本老年医学会:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標2016. (http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_01.html)

12) 酸素カプセル導入ガイド (http://www.oxycapsule.com/effect/lifestyle_related_illnesses.html)

13) 血液から見える健康第3回HbA1cに影響を与える要因について 糖尿病特集サイトメディマグ (http://dm.medimag.jp/column/7_1.html)