人への感染脅威が再び高まっている鳥インフルエンザウイルス

大槻 公一 氏(鳥取大学名誉教授

はじめに

高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の日本国内での発生が、79年ぶりに2004年1月に山口県の採卵養鶏場で認められました。その直後、大分県の愛玩鶏、京都府の採卵養鶏場で発生しました。これらの発生は国内に大きなインパクトを与えました。それは、病原体が人の季節性インフルエンザの原因ウイルスと同じインフルエンザウイルスであったからです。

厚労省は、鳥インフルエンザウイルスが人へも感染して、新型インフルエンザの発生に繋がる可能性を危惧して、人体用の鳥インフルエンザ(H5N1)不活化ワクチンを試作しました。その後、何度も国内では養鶏場を中心に、高病原性鳥インフルエンザの発生は起きていますが、中国、東南アジア、中東の場合と異なり、国内での人の鳥インフルエンザ罹患例は起きていません。その結果、現在では鳥インフルエンザは、単に鳥類だけが罹患する鳥類の感染病という誤った認識が国内では一般化しています。

インフルエンザウイルス

インフルエンザウイルスは広い宿主域を持つことが特徴です。ほとんどすべての鳥類、人類を含む猫、犬、牛、豚、馬、タヌキ、キツネなどの各種ほ乳動物に感染して病原性を示します。すべてのインフルエンザウイルスは、鳥インフルエンザウイルスから派生している、すなわち、すべてのインフルエンザウイルスの祖先は鳥インフルエンザウイルスであることも判明しています。現在、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の汚染は地球規模で拡散しつつあり、憂慮されています。

鳥インフルエンザウイルスと人のインフルエンザウイルス

これまでの研究で、インフルエンザウイルスが感染する際に付着する人の鼻粘膜や上部気管粘膜の表面に存在するレセプターの分子構造が、1か所だけ鳥類の呼吸器粘膜のレセプターと異なることが判明しています。ただし、人の肺を構成する肺胞の表面に存在するレセプターは鳥類のレセプターと同じであることもわかっています。その結果、人が鳥インフルエンザウイルスに感染することはごく稀であると考えられています。しかし、一旦感染が成立して発病すると、急性肺炎など重症の呼吸器症状が高率に発現して死亡率が高くなります。

このような人の感染死亡事例は、中国、東南アジア、中東で数多く知られています。一方、日本国内では、公衆衛生、家畜衛生両面での防疫対策が功を奏していて、現在まで人での感染事例は起きていません。しかし、国外に在住する邦人の感染対策徹底化は重要課題です。

ほ乳類の鳥インフルエンザウイルスに感染した事例

現在、猛威を奮っている高病原性鳥インフルエンザウイルスの亜型はH5N1です。1996年に中国で出現したこのウイルスの鳥類に対する病原性は、出現当初は極めて激烈でしたが、最近、若干弱くなっている傾向にあるようです。実際に、アヒルなどの水きん類はこのウイルスに感染しても無症状の個体もあるようです。このようなウイルス汚染アヒルなどの肉を材料にした犬や猫などの伴侶動物用の飼料が加工の際に加熱不十分であった場合、ウイルスの感染力は維持されたままであることがあります。そのウイルス汚染飼料を喰べた猫が鳥インフルエンザに罹患して死亡した事例が、韓国、ポーランドで報告されています。また、2022年と2023年の4月に、札幌市内で鳥インフルエンザに罹患して死亡したカラスを捕食したキタキツネ、タヌキが、鳥インフルエンザに罹患して死亡した事例も報告されています。

このように、鳥インフルエンザは鳥類だけの感染病ではなく、ほ乳類も危害を受けた事例が実際に起きていることを十分認識しておく必要があります。

鳥インフルエンザウイルスに感染しないために

2022年秋から2023年春にかけて日本国内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザは未曾有の猛威をふるい、1800万羽近くの鶏が被害を受けました。その結果、卵の値段が跳ね上がり、日常生活に少なからず影響を被りました。ほとんど報道されていませんが、国内では北海道から九州まで、多くのカラスが鳥インフルエンザウイルスに感染して死亡しています。カラスに捕食された小型野鳥の多くが、鳥インフルエンザウイルスに感染していた結果、このような事例が起きたと考えられています。

カラスは、冬の間、養鶏場ばかりでなく私たちが生活する環境で生息しています。ごみ収集所に群がっていることもあります。私たちが、これらカラスから鳥インフルエンザウイルス感染を受ける危険性のあることを考えておかねばなりません。

私たちが鳥インフルエンザに罹患しないために、その対策を考える上で、カラス対策の重要性を見直さなければならない時期になっているのではないでしょうか。