フレイル予防とQOLを高める栄養素について

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長
矢澤一良氏

食に対するニーズは、健康志向、予防医学やWell-being意識の向上をはじめさらに高度化しており、最終的にヒトの健康の維持・増進、予防医学、QOL(生活の質)改善、Well-being(健康と幸福感)などをもたらす。

近年は単なる健康だけではなく「Well-being」という概念、即ち「幸福感」も含めた考えが提唱されている。「健康寿命延伸」について各視点から叫ばれて来ているが、実際には平均寿命も延びているために、その差がなかなか縮まらないのが現状である。単に「健康寿命延伸」の掛け声だけではなく「健康寿命を平均寿命に近づける」事をWell-beingという大きな目標に掲げるべきであると考えている。

COVID-19パンデミックの影響は思いがけなく大きいものであり、今回ほど医療先進国としての欠点が指摘され、大きな経済変動まで引き起こしたものはない。このような感染性疾患を一時的な流行と考えず、いつでも起こりうる事との認識(with Virus)に基づいて、「予防医学(疾患発症を遅らせる)」と「健康寿命延伸(平均寿命に近づける)」を考える上では、食品の機能性と生活習慣の重要性にフォーカスされて来ている。

一方で感染性疾患予防と同時に、少子超高齢社会と言われる中で数年後に迎える避けて通れない「2025年問題」すなわち団塊世代の後期高齢者化による非感染性疾患発症(メタボリックシンドローム・ロコモティブシンドローム・フレイル)増加への対策方法も、共に「予防医学」が基本概念である。

人は加齢とともに体力・活力・気力が低下し、外出する機会が減り、病気にならないまでも支援や介護が必要となってくる。このように身体と脳と心の働きが弱くなってきた状態を高齢者フレイル(虚弱または老衰)と呼ぶ。フレイルが続くことで、介護が必要な状態に進み、認知症への移行が早いとされている。

フレイルの原因には、加齢のほかに生活習慣や身体的要因、精神的・心理的要因、環境的要因、高齢者に多くみられる慢性疾患などがあげられる。生活習慣では食事内容の質の低下(偏食や欠食、度を超す多食・多飲なども)や運動不足があげられる。

また、フレイルには可逆性、多面性という特徴がある。フィジカル・フレイル(身体の虚弱)は、運動器の機能の衰えであり、ロコモティブシンドロームやサルコペニアなどに代表される身体的な虚弱状態である。ロコモティブシンドロームは、骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、歩行や立ち座りなどの日常生活に支障をきたしている状態である。また、サルコペニアは加齢に伴って自動的に筋肉量が減少する状態のことである。

メンタル・フレイルやコグニティブ・フレイルは、心の面における衰えであり、精神面(メンタル・フレイル)、認知機能面(コグニティブ・フレイル)がある。一般的にうつ状態やアパシー、認知機能の低下などが顕著な状態といえる。フィジカル・フレイルに認知機能障害(明らかな認知症を除く)が併存する状態をコグニティブ・フレイルという。

ソーシャル・フレイル(社会性の虚弱)は社会参加の欠如の状態であり、独居、外出頻度や知人との交流頻度の低下などで地域から孤立した状態を指す。そのほかにも、フレイルにはオーラル・フレイル(栄養、嚥下、口腔の機能の低下)、ヴォイディング・フレイル(排泄機能の低下)、センソリー・フレイル(感覚機能の低下)、セクシャル・フレイル(生殖機能の低下)などがある。

加齢などにより筋力や筋肉量が減少すると活動量が減り、エネルギー消費量が低下する。さらにその状態では食欲が湧かないので、食事の摂取量が減り、たんぱく質をはじめとした栄養の摂取不足による低栄養の状態になる。低栄養の状態が続くと体重が減少し、筋力や筋肉量が減少していく(結果、サルコペニアとマイオカイン分泌減少が発生)。こうした悪循環はフレイル・サイクル(負のスパイラル)と呼ばれ、転倒や骨折あるいは慢性疾患の悪化をきっかけとして要介護状態になる可能性が極めて高くなる(図)。

一方、フレイルは早期における適切な予防医療の介入により健康な状態に回復することができる。したがって適切な「栄養と運動と休養」の介入を行うことにより、QOL向上になると期待される。

フレイル(虚弱)とは一般的には高齢者に生じることとして知られているが、より広く「フレイル」を理解するならば、子供たちの栄養や食の偏り、過剰なやせ志向の女性の健康の問題など全世代での視点が重要であると考えている(オール世代フレイル)。またフレイルを発生臓器別、発症メカニズム別に分類して考察する事でよりフレイルへの理解が進み、対策が明確になってくる。

フレイル対策の切り札は「栄養と運動と休養」の有効利活用であると考えているが、その解決のためのメカニズムからのアプローチは重要である。

重要課題の具体例として、

  • 血管と血流改善
  • 魚食の効果
  • ムードフード(精神栄養学)によるストレス対抗・疲労改善・睡眠改善
  • 腸活(第一世代研究から第四世代研究)

等を概説した。

「栄養と運動と休養」の有効利活用の究極のゴールはヒトのWell-being(健康と幸福)であり、今後の研究と技術開発にその未来を託したいと考えている。