鶏伝染性気管支炎研究から見た新型コロナウイルス感染病

鳥取大学名誉教授 大槻公一

新型コロナウイルス感染による呼吸器病(COVID-19)は、SARS、MERSなど同様、動物由来の感染病(人獣共通感染病)です。病原体のコロナウイルスは、現在、動物ウイルスから人ウイルスに変わる途上にあります。

鳥類のコロナウイルス感染病

COVID-19ウイルスは、コロナウイルス亜科ベータコロナウイルス属に分類されますが、鶏伝染性気管支炎(IB)ウイルスは、ガンマコロナウイルス属に分類されます。IBに罹った鶏は重篤な呼吸器症状を示し、腎臓障害を起し、産卵率が激減するため、経済被害の大きな養鶏産業上重要な感染病です。さまざまな生ワクチンが予防のために使われていますが、効果は顕著ではなく、IBの病勢は弱まっていますが撲滅には至っていません。

コロナウイルス感染病には二度罹り、三度罹りする可能性がある

IB生ワクチンが国内で使用許可される直前の1972年春、鳥取県内複数の養鶏場にI Bウイルスが侵入しているか否かを、鶏の血清中にIBウイルス抗体保有の有無で調べました。その結果、以下のことが判明しました。

  1. 養鶏場には、抗原性の異なる病原性の弱いIBウイルスが度々侵入している。
  2. 養鶏場に侵入したIBウイルスは、その都度鶏に感染し、毎回新たな抗体を感染鶏は産生した。すなわち、鶏には、IBの二度罹り、三度罹りが起きる。産生された抗体は次に感染したウイルスの感染を防御できない。
  3. 使用される予定のIB生ワクチンの予防効果に疑問が持たれた。

コロナウイルスが抗原変異の生ずることを証明

実際に、野外ではIBワクチン使用で期待された予防効果は得られず、原因としてIBウイルスに多数の血清型が存在するためとされていました。私は、IBウイルスには変異が頻繁に起き、変異が原因と予測していました。当時、コロナウイルスの変異は未知でした。

私は、ほ乳類由来のBHK-21細胞でIBウイルスの増殖を繰り返したところ、抗原変異が起きました。変異ウイルスを鶏由来細胞で継代を進めたところ、抗原性が元に戻りました。

鶏体内でのコロナウイルスの変異

IBウイルスには、呼吸器症状を主徴とする(呼吸器病型)ウイルスと、腎臓に親和性の強い致死性の高い(腎炎型)ウイルスが存在します。私は、腎炎型ウイルスを孵化後間もないヒナにウイルスを繰り返し呼吸器感染させることにより、呼吸器病型ウイルスに変異させることに成功しました。呼吸器病型ウイルスを総排泄腔(尿道口と肛門が一緒になった器官)接種を繰り返すことにより腎炎型ウイルスに変異させることに成功しました。コロナウイルスは呼吸器病ばかりでなく多様な病型を引き起こす病原体であることが分かりました。

コロナウイルス変異の本態

私達の研究から、夫々のコロナウイルス株は、病原性、抗原性、宿主域、臓器嗜好性などに多様な性状を持つ、数多くの小集団から構成されており、ウイルスが感染を繰り返す間に、小集団の混合比に変化が生じた結果、変異という現象が現われる、が私達の結論です。コロナウイルスの増殖する環境に変化が生じれば、小集団の構成比にも変化が生じ、優勢に増殖した小集団の性状がその時のウイルス性状として認識されると考えています。

コロナウイルスは複数の臓器で長期間増殖し続ける(持続感染)

IBウイルスを孵化後間もないヒナに感染させると、ヒナの結腸から18週間断続的にウイルスが回収されることを見出しました(持続感染)。すなわち、IBウイルスは呼吸器以外の臓器でも増殖し、しかも長期間ウイルスは増殖し続けることも認めました。COVID-19ウイルス感染でも同様の現象(持続感染)が起きている可能性があります。

COVID-19ウイルス感染症の先行きは?

ワクチン接種が予防に有効ではあるが、ワクチン効果は限定的で、有効期間も短いです。コロナウイルス感染病の宿命かもしれません。感染防止は重要です。COVID-19ウイルスは最終的には、風邪ウイルスになることが予想されます。