新型コロナウイルス感染症

大槻 公一 氏(鳥取大学)

本研究会で、新型コロナウイルス感染病についてこれまで3回紹介してきました。本病は21世紀に初めて出現した新興感染病です。また、典型的な人獣共通感染病です。



病原体の本来の宿主はコウモリでした。たまたまコウモリから人に感染したコロナウイルスが、人から人への感染が成立し、人から人への感染を続けている間に、人に対する感染力を高め、逆に、人への病原性を弱めている傾向が見受けられます。 





人を固有宿主とするウイルスに変異する途上にあるのが現状ではないかと考えています。




しかし、高齢者などに感染して発病した場合、未だ激烈な臨床症状を示す事例や、さまざまな症状が長く残ってしまう、いわゆる後遺症に悩む発病者も少なからず認められています。新型コロナウイルスは、最終的には、人には鼻風邪程度の軽微な病原性しか示さない人のウイルスになって存続すると推定されます。

厚労省が日本赤十字社の協力を得て、外見上健康な人の血清中の新型コロナウイルス抗体保有率を調べています。献血者の2022年11月には、30%弱が抗体陽性でしたが次第に陽性率は上昇し、2024年3月時点では65%まで達しています。ワクチン接種者の増加をも反映している可能性はありますが、近い将来、抗体保有率80%、すなわち国内に居住する人の80%がなんらかの形式で新型コロナウイルスに接触したという数字に到達することも考えられます。

一方、私達が長らく実施した鶏伝染性気管支炎ウイルス(鳥類のコロナウイルスの一種)研究から、コロナウイルスの感染を受けた動物(人)の体内で抗体が作られても、コロナウイルスは体内から容易に消滅しないと私は考えています。したがって、コロナウイルス感染病に対するワクチンの予防効果は限定的であり、今後しばらくは、季節性インフルエンザワクチン同様、定期的にワクチン接種を続ける必要があると考えています。この現象は、コロナウイルス感染病全体の宿命かもしれません。

同時に、コロナウイルス感染が起きた場合、感染は複数の臓器で長期間持続する、すなわち持続感染が起きることも私達の実験からすでに推定されていました。


また、コロナウイルス株は多様な性状を持つ、数多くの小集団(subpopulation)から構成されており、小集団の混合比に変化が生じた結果、変異という現象が現われる、という結論を私達は私達の研究から得ています。

まとめ

今回の新型コロナウイルス感染病の場合、人から人への感染が何度も繰り返された結果、重症化症例は激減しました。この変異は、原因ウイルスが、現在、ウイルス株を構成する小集団の構成比が、発生当初の動物(コウモリ)ウイルスのものから大きく変わり、人ウイルスに限りなく近づいた結果生じている現象である事を強く示唆しています。しかしながら、2024年11月現在、新型コロナウイルス罹患者数は大幅には減じておらず、重症化して入院を余儀なくされている罹患者も減じていません。高齢者、基礎疾患を持つ人々の新型コロナウイルス防疫対策確立は依然として揺るがすことができません。